下町芸術祭

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2019/11/02

レポート|【下町芸術大学】首藤義敬さん・清水政克さん「都市生活における社会福祉実学|実録!ゴミ屋敷から見える社会の現実」

第3回目の下町芸術大学では、新長田をはじめ、これからの都市生活において今まさに直面している様々な問題について、在宅医療や介護福祉に携わる二人の講師の現場トークから紐解いていきました。講師は、医師でありゴミ屋敷ハンターでもある清水政克さんと、今回の 講義会場である多世代型シェアハウス「はっぴーの家ろっけん」を運営する首藤義敬さんです。この講義を受けて、ゴミ屋敷の問題は私たちの身近に潜んでいることが分かりました。また、単にゴミ屋敷の現状を知っただけではなく、それが身近な存在ならば、自分に何ができるのか、といった視点で、他人事ではなく自分事として考える機会ともなりました。

ゴミ屋敷は病気の一種!?

前半にお話されたのは清水さんです。清水さんは清水メディカルクリニックで在宅医療に携わっており、現場で遭遇するゴミ屋敷についてご紹介されました。
日本では、ゴミ屋敷と聞くと、その原因として、「物を捨てることができないこと・片付けができないこと」などが思い浮かび、それをその人の性格と捉えている方が多いのではないでしょうか。
しかし、清水さんによると、外国ではゴミ屋敷は、「hoarding disorder(ため込み症候群)」、つまり一種の病気だとされています。いまだ有効な治療は見つかっていません。
そして、ゴミ屋敷と一言でいっても、程度の差によって対処法や危険性もかえあってくることから、ゴミ屋敷の程度を数値化する必要があるそうです。その方法として、ゴミ屋敷の程度をチェックリスト形式で判断したり、イメージレーティングという、測定したい部屋の散らかり具合に最も近い画像を選ぶ方法があります。

5段階評価のなかには、レベル3の延長コードの使い過ぎ、聞こえるが見えない齧歯類の存在、レベル4のコウモリあるいはアライグマが屋根裏にいる、など様々な評価基準があるそうで、来場者からは笑いの声や、納得の声、どよめきがおこったりする場面も見られました。
また、実際に清水さんが訪問診療で直面したゴミ屋敷を写真とともに細かく紹介して下さいました。その中の一つに、ため込み症候群の姉妹の患者さんの症例があります。姉妹は耳が聞こえないため、やり取りはFAXをおこなっているそうです。猫をたくさん飼っていて、その餌代を捻出するために、姉妹は一日パン一枚だけの日もある。それでもまた捨て猫を探しに行ってしまうそう。受講者からは、驚きの声が多々あがりました。

このような課題と向き合う中で、清水さんはどんなに危険な状態でも、相手の方から来てほしいと言われないと訪問できない事情や、当事者はゴミ屋敷とは思っていなくても片づけるべきなのか、本人の意志を尊重すべきなのか、という葛藤にもどかしさを感じているそうです。また、ゴミ屋敷問題は本人だけの問題ではなく、火災になれば、近隣の方に迷惑をかける可能性があることから、清水さん自身もどこまで踏み込めばいいのか悩んでいるとおっしゃっていました。最後に清水さんは、行政や民生委員(地域住民の立場から、生活や福祉全般に関する相談・援助活動を行っている)など地域でサポートして頂かないと、診療という形でしか関わることができない自分たちだけでは難しいと、地域一帯での支援の重要性を述べていました。

来場者の声 
清水さんの講義の後、質問やコメントの時間が設けられました。
来場者:ゴミ屋敷を目の当たりにしたとき、まず誰に相談したらいいですか?
清水:行政の社会福祉協議会や地域包括支援センターといった医療介護系の場所に連絡するのは一つの方法です。個人情報という壁があるので、民生委員も知ってはいてもなかなか手は出せないという事情もあります。病気だという判断がつけば受診することができ、何らかの介護スタッフが付くことはできると思います。
みなさんのコミュニティの中で、公にはなっていないけれども、ここは空き家だとかゴミ屋敷だとかみんなが知っている情報はないですか?そういう情報をもっと共有しないと、そういうエリアが火事になって燃えてしまったとか、感染症が発生してしまった場合、周りに住んでおられる方に健康被害が及んだり、建物の価値や地価が下がってしまう。だから、資産価値という点でも、コミュニティ全体で支えていかないと、今後皆さんが生活していくことが難しくなっていくことも考えられます。今は空き家がとても増えているので、地域の皆さんで解決していくことも大事だと思います。

ゴミを捨てれば解決なのか?
後半にお話されたのは、はっぴーの家ろっけんをはじめ様々な福祉事業を展開している首藤さん。ご自身のはっぴーの家での経験や、ゴミ屋敷に住んでいる方との関わり方、地域の方の居場所づくりをすすめる大切さなどについてお話いただきました。そして、ゴミ屋敷の問題だけでなく、地域のお年寄りが抱える問題にアプローチする首藤さんならではのアイデアもご紹介くださいました。

首藤さんは、自分自身のご両親との体験から、ゴミを捨ててもゴミ屋敷問題は解決しないということを学んだそう。ゴミ屋敷の住人とのかかわり方として、背景を尊重することが大事だとおっしゃっていました。それを踏まえて、日常的な何らかの地域の関わりがきっかけで、ゴミ屋敷が解決するというパターンを紹介して下さりました。例えば、片づけたい場所があるときは、遠くから攻める、というのがあります。これはつまり、片づけたいからと、そこを一番に片づけてしまうのではなく、まずは片づけることができない背景を見つけ出し、それに基づいて関係性を築いていくことから始める必要があるということです。

治療が難しい病気との向き合い方
また、実際にはっぴーの家ろっけんに入居している方々が抱える問題に対して行ったアプローチの仕方をお聞きしました。どれも想像していなかった独創的な発想で解決されており、素晴らしいと感じました。
特に印象に残っている2つの例をご紹介します。

・記憶障害は良き相談相手
記憶がとんでしまう方については、プライベートなことを相談しても10分で忘れるから、秘密は必ず守られることを強みにして、地域のイベントで人生相談をきく役割を与えたそうです。
・交流から地域の住民を見守り隊に
あるゴミ屋敷に住んでいたおじいちゃんへは、毎日ご飯を届けることを続け、まず関係性を作るところから始めたそう。そのようにしておじいさんと積極的に関わり、距離を縮めていくうちに、地域の行事に積極的に参加してくれるようになり、住民の方との交流が増えていったことで、おじいちゃんと地域のつながりができ、脱走しても地域の方が見守ってくれるし連絡もくれる関係性ができたそうです。

このように、症状へのアプローチの仕方を変えるだけで他の施設では受け入れられなかった方も、はっぴーの家では居場所をみつけることができているそうです。まずはかかわりを持つことが大事だと首藤さんはおっしゃっていました。また、首藤さんの、「違和感は3つ以上重なればどうでもよくなる」という言葉がとても印象に残りました。

まとめ

講義の最初では、ゴミ屋敷を実際に見たことがあるかどうかの質問で手を挙げたのは2,3人とごく少数でしたが、ゴミ屋敷とは何かを学んだ後では、かなり多くの方が、程度の差はあれ、ゴミ屋敷を身近に捉えているような印象を受けました。
受講者のコメントからもうかがえましたが、ゴミ屋敷は、周りから見ればゴミであっても、本人はそうでなかったり、こちらが手助けしようと思っても、本人たちは困っていなかったりと、価値観の違いによる衝突が多いと感じました。まずはゴミ屋敷になった背景を見つめ、関係性を築くことから始める必要がある。そして、個人での解決は難しく、地域のサポートが不可欠であり、それは今後の課題であると考えさせられました。

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