下町芸術祭

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2019/10/17

レポート|【下町芸術大学】小國陽佑さん・中元俊介さん「アート初心者講座|複製するアート!シミュレーショニズム初心者講座」

3講目の下町芸術大学、本日レポートするのは、「複製するアート!シミュレーショニズム初心者講座」です。このタイトルを見て何が行われるかお分かりになる方はなかなかのアート通とお見受けします。私自身アートは大好きですが、複製するアートという言葉はピンと来ず、そもそもシミュレーショニズムとは何ぞやと、わからないこと尽くしで講座が始まりました。まずは講師を務めるアートディレクターの小國陽佑さんと、美術講師で画家の中元俊介さんからシミュレーショニズムについてご説明いただき、その後参加者全員で駒ヶ林の防波堤に実際に絵を描きました。

シミュレーショニズムの第一歩

シミュレーショニズムとは、1980年代にNYを中心に広まった美術運動であり、既存のイメージを登用することで、オリジナルとは何かを見直し、その権威を解体する運動を指します。講師の小國陽佑先生によると、贋作(がんさく)とシミュレーショニズムは全く別物で、例えるならば、シミュレーショニズムはお笑い芸人がリスペクトを込めながら他の芸人のモノマネをするのと似ているそうです。なるほど、贋作はオリジナルのフリをし、オリジナルだと思わせるけれど、シミュレーショニズムはオリジナルの特徴を押さえつつ新たな作風を加えているようです。そして何よりも、シミュレーショニズムにはオリジナルへの深い愛があると先生はおっしゃいます。

理屈はともかく、まずはやってみようと、モネやルノワール、ゴッホ、マティス、レオナルドダヴィンチといった巨匠の絵画が一人5枚ずつ配られました。まずはその中から気に入った作品を一枚決めたら、カーボン紙を重ねて方眼の入った紙に絵をトレースしていきます。今回の芸術大学は実践系なだけあり、小さいお子さんや中学、高校くらいの学生さんがたくさん参加しており、講座は終始賑やかだったのですが、このトレースの時間ばかりは、教室がシンと静まり返るほどに皆さん真剣な顔で絵画と向き合っていました。どこに目がついているのか、口はここについているのか、トレースして改めて気づく点がたくさんあります。これも複製するアート、シミュレーショニズムの魅力の一つなのです。複製しようとするからこそ、鑑賞しているときとは全く違う視点で、全体の構図や配色に気が付くことができるのです。シミュレーショニズムはオリジナルを研究するときの格好の手段でもあるということですね。さて、トレースを試みるは良いものの、どの絵も輪郭がはっきり描かれているわけではないので、鉛筆でなぞっていくのがなかなか難しいのです。どこに輪郭を与えるかが個人の采配に任せられるから、同じ絵をトレースしても違う表情の絵が出来上がるのがまた面白いところでもあって、ここで性格が出るんですよね、と先生は笑っていました。

 

実践!防波堤をキャンバスにしてみよう!

さて、トレースが終わったら、太陽の照る屋外に移動です。なんと今回は、駒ヶ林の防波堤にペンキを使って描いていくというので、みんな張り切って向かいます。町の中に、子どもも大人も一緒に描いた名画があるなんて、なんと素敵なことかとドキドキ胸が高鳴ります。それにしても今日は日差しが強くてまいったなと思っていたら、駒ヶ林まちづくり協議会の皆さんに冷たいお茶の差し入れをいただいて、ありがたやと涙ぐみそうになりました。

 このようなところで地域とのつながりを感じることができてなんだか嬉しい気持ちです。しかしあまりにも暑いので制限時間は1時間程度に短縮することになり、本当に完成できるのかしらと一抹の不安がよぎる一行です。

さて、時間がないぞと気合を入れて、防波堤に準備されたブルーシートの上で班ごと手分けして絵を描いていきます。まずはチョークで先ほどトレースした下絵を防波堤上の方眼入りのキャンバスに写します。慎重に慎重に…。その間に他の班員は用意された赤、青、黄、白など数色のペンキを混ぜ合わせ、大昔の巨匠が使った色に近づけていく作業を進めます。これがなかなか難しい作業。特にモネの繊細な色使いなんか、一体何色使ってるのかしらと気が遠くなりそうになりますが、みなさん熱心に調合し、手分けして塗っていきます。私は横から様子をずっと見ていたのですが、みなさんのこだわりようとギラギラ光るセンスに度肝を抜かれっぱなしでした。数色のペンキからまるで水彩画のように淡い色合いを作り出し、小さい筆でトントンと軽いタッチで塗っていく班があるかと思えば、大胆不敵に鮮やかな色をドドンと塗り、そこに細かい特徴をうまく重ねていく班があります。繊細な筆遣いで体をちょっとそらして絵を眺めながら筆を乗せる姿はさながら画家先生な少年も。深い色合いを再現するのに渾身のこだわりを見せていました。小國先生や中元先生にアドバイスを受けながら、大人も子どもも隔たりなくみんなで一枚の絵と向き合っていきます。

 

完成!防波堤に現れた名画たち

灼熱の太陽と地域の方々に見守られる中、時間はあっという間に過ぎ、ついに完成の時を迎えました。淡く美しい色彩、水彩画のような優しい雰囲気のモネ『散歩、日傘をさす女』、鮮やかな色彩で力強い筆遣いのマティス『緑の筋のある女』、鮮やかながらも雰囲気のある色合いにこだわったゴッホ『包帯をしてパイプをくわえた自画像』、ダークな色合いを再現し、背景に繊細な花まで浮かび上がらせたルノワール『イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢』、そして言わずと知れた名画をどこかポップで現代風に感じさせるレオナルドダヴィンチ『モナ・リザ』。どれもこれも見ごたえのある作品で、完成作品を見る参加者のみな

さんの表情も輝いていました。暑い日差しの中、汗をだらだら滴らせながらもシミュレーショニズムに没頭するみなさんを見ていると、脳裏に小國先生の言葉がフラッシュバックしてきます。

「シミュレーショニズムは愛だ!贋作とは違う!シミュレーショニズムは研究と発見の方法だ!」

 

まさにその通りであるとしみじみと感じます。愛のこもった複製アートは、駒ヶ林にある長田港の防波堤にて鑑賞いただけます。下町芸術祭の展示会場もすぐそばです。皆さまぜひ見に行ってみてくださいね。

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